Our Features私たちの特徴

頭部外傷

はじめに

頭部外傷診療の歴史は非常に古く、医学の祖であるヒポクラテスの時代より頭部外傷の診療・手術が検討され、現在でも頭部外傷は脳神経外科一般診療において日常的に診察する疾患であります。
当院は24時間対応の2次救急や都内有数の搬送数を誇る3次救命救急センターを有しており、頭を打って歩いていらっしゃる患者様から、交通外傷などに代表される重症で今すぐ手術が必要な患者様まで幅広い外傷疾患に対応しています。

患者様へ=当院の方針

外傷による脳出血は、受傷直後は症状がなくとも時間経過で悪化する可能性があり、重症例や抗血栓薬(血がさらさらになる薬)を内服されている患者様ほど急速に悪化する傾向にあります。当院は日本脳神経外傷学会認定の専門医および指導医が在籍し、認定研修施設にも登録されています。前身である東京女子医科大学東医療センター時代からの豊富な外傷症例に対する治療実績だけでなく、最新の医療器具を用い患者様の状態評価や症状改善に役立てています。
軽度な打撲で意識がしっかりされていても、少しでも心配や不安がある患者様は遠慮なく御相談ください。

外傷の分類

急性硬膜下血腫

急性硬膜下血腫は、頭蓋骨の下にある脳を覆っている硬膜と脳との隙間に出血が起こり血腫(血のかたまり)がたまる病気です。頭をぶつけた衝撃で脳の表面の血管が傷ついたり、頭が強く揺さぶられる(強い遠心力が働く)ことで脳と硬膜をつなぐ静脈が裂けることで出血を起こします。その出血の程度や意識の状態によって治療方針が決まります。
血腫が大きいと脳が圧迫されて、片側に力が入らない、うまくしゃべれない、ぼんやりと反応が乏しい、などといった症状が出現し、呼びかけても目も開けず返事がない、いびきをかいているなどいった状態の場合は重症である可能性が高く、いずれも緊急手術を要します。手術が行われる急性硬膜下血腫の死亡率は、約40〜60%と言われています。

出血量が少ない、意識がはっきりしている場合

入院の上で止血剤の投与や血圧コントロールなどを行い、頭部CTやMRIによる画像検査を行って経過を見ます。
しかし受傷時や診察時に意識がはっきりしている場合でも出血が大きくなることがあり、意識の状態が悪くなる場合は手術を行います。また出血が大きくならず退院できた場合でも、受傷から数週間〜1ヶ月ほど時間が経った後に慢性硬膜下血腫に移行することがあり注意が必要です。
まれではありますが、慢性硬膜下血腫への移行とは別に、出血量が多くないため手術をせずに様子を見ていたら受傷から10日〜14日ほど時間が経過した、いわゆる亜急性期に血腫量が多くなったり脳が腫れてしまうことで遅れて意識の状態が悪くなり手術を行うことがあるため、軽症でも入院による治療や外来での密なフォローアップが必要です。

image頭部単純CT(左の写真は入院時、右の写真は入院から10日後のもの)

左の写真では右側の脳の外に白っぽく見える出血があります。出血量が少なかったため経過観察しました。
右の写真では白っぽく見えた出血の色が薄くなっていますが、右側の脳が全体的に腫れぼったくなっています。

出血量が多い、意識の状態が悪い場合

交通事故や高所転落などの強い衝撃が加わる外傷、いわゆる高エネルギー外傷による急性硬膜下血腫の場合は出血が急速に大きくなり脳を強く圧迫することが多く、救命のための緊急手術を要し早い手術が望まれます。
脳挫傷など脳の損傷が伴っている場合、手術を行っても予後が不良とされています。

image頭部単純CT

三日月型に白っぽく見えるところが血腫です、左側の脳が右へ押されてしまっており非常に危険な状態です。

急性硬膜外血腫

急性硬膜外血腫は、頭蓋骨とその下にある脳を覆っている硬膜との隙間に出血が起こり血腫(血のかたまり)がたまる病気です。頭蓋骨の骨折があることがほとんどで、骨折によって硬膜の表面にある血管が傷ついて出血を起こします。こちらも急性硬膜下血腫と同じく出血の程度や意識の状態によって治療方針が決まり、軽症は経過観察、症状がある場合は手術を行います。一般的には急性硬膜下血腫とは異なり脳の損傷を伴うことが少なく、予後は良いとされています。
症状も血腫による脳の圧迫によって身体半分の力が入りにくい、しゃべりにくい、頭が重いなど様々です。

image頭部単純CT

急性硬膜外血腫は矢印のように凸レンズの形をするのが特徴です

image頭部CT 頭蓋骨3D写真

急性硬膜外血腫はほとんどの場合、頭蓋骨の骨折があります

慢性硬膜下血腫

慢性硬膜下血腫とは、忘れてしまうような軽微な頭部外傷などの後、通常1~2ヶ月かけて、頭蓋骨の下にあり脳を覆っている硬膜と脳との隙間にじわじわと血が貯まってくる病気です。
血腫が脳を圧迫した結果、頭痛、物忘れ、認知症の症状、失禁、半身に力が入らない、歩きにくいなどの症状が出ることが多いです。年間発生額度は人口10万人に対して1~2人とされ、右か左かのどちらか片側に血腫ができることが多いのですが、時には両側性(約10%)の患者様もおられます。
基本的には正しく診断がなされタイミングを逸することなく治療が行われれば完治する予後の良い疾患ですが、再発しやすい特徴があり約10%の方に見られます。お薬での治療や場合によっては再手術を行うことがあります。

image頭部単純CT

矢印のような三日月型が多く、色も白黒混ざっていたりと様々です
血腫によって右側に見える脳は押しつぶされています

外傷性くも膜下出血

くも膜とは脳を包んでいる膜のことで、くもの巣のように見えることに由来します。そのくも膜と脳との隙間には脳脊髄液で満たされた空間(くも膜下腔)があり、そこには脳を栄養する血管があります。外傷性くも膜下出血とは頭をぶつけたことで、脳挫傷やくも膜下腔にある血管が破れて起きる病気です。
一般に言われる「くも膜下出血」は動脈瘤という脳血管のこぶが破裂したことによって起きる病気で、名前は似ていますが治療や予後などは大きく異なります。(くも膜下出血の治療法や予後はこちら→)
外傷性くも膜下出血のみでは死に至ることは稀ですが、出血量が多いと出血のある場所を走る脳血管が縮こまること(脳血管れん縮)が起こることがあります。血管が縮こまることで脳に十分な血液を送ることができなくなり脳梗塞を起こしてしまうため注意が必要です。
出血量が少ない場合は身体に吸収され消えて無くなり、後遺症も残しません。

image頭部単純CT

脳の溝に沿って見える白く細長いものが外傷性くも膜下出血です

脳挫傷(のうざしょう)

脳挫傷は、頭を強くぶつけることよって脳自体に傷ができてしまう病気です。前述の急性硬膜下血腫や外傷性くも膜下出血を伴うことが多いです。脳の傷ができた場所によって手足の麻痺、記憶力の低下、言語の障害など様々な症状を引き起こし、傷跡が大きい場合、一部は高次脳機能障害として後遺症を残してしまいます。また将来的にてんかんの原因となることもあります。
非常に大きな脳挫傷では救命のために脳挫傷による出血を取り除く手術を行うことがありますが、基本的には積極的な手術の適応はなく経過観察となります。

image頭部単純CT

矢印のように脳の中に白と黒が入り混じるような出血を認めます。
場所としては前頭葉や側頭葉が多く、後頭部を強くぶつけた時によく見られます。

びまん性軸索損傷

びまん性軸索損傷は頭が強く揺さぶられることで脳の神経線維が広い範囲(びまん性)に切れてしまう病気で、多くは交通事故が原因とされます。怪我をした直後から昏睡状態が続くのに、頭のCTでは急性硬膜下血腫や脳挫傷などの目立った脳出血がないような時に疑われます。
頭のMRIを行うことでCTではわからなかった小さな病変や出血のない病変を見つけることで診断できます。
一般的に手術の適応はなく、まだびまん性軸索損傷に対して有効な治療は見つかっておらず、全身管理による対症療法が行われます。

image頭部単純MRI 左:拡散強調像(DWI)、右:T2*(ティーツースター)

左の写真の白くぽちっとしたところや右の写真の黒くぽちっとしたところがいくつか見られます。神経線維が切れたところの局所的な脳のむくみや出血を見ていると言われています。

脳震盪(のうしんとう)

頭を打ったことで、一時的に脳の機能が傷害される病気です。症状は頭痛、頭が重い、吐き気、嘔吐、めまい、健忘(頭をぶつけたことを覚えていない、今何をしていたのか思い出せないなど)、ぼやけて見える、など様々です。ラグビー、柔道、ボクシング、サッカーなど接触のあるスポーツで起こりやすく、症状改善まで十分な休息に取り、安静を保つことが重要です。脳震盪後の競技復帰には、症状改善後も1日ずつ運動強度を上げる段階的復帰が推奨されています。
脳震盪からの回復には7〜10日ほどかかると言われ、特に若年者では回復に時間がかかる傾向にあるとされています。

手術内容

穿頭血腫洗浄術

慢性硬膜下血腫で行われる手術で、比較的短時間で終了する手術です。手術室で局所麻酔を用いて頭蓋骨に小さな穴を開け、そこから細い管を入れた上で血腫を洗い流します。入院してからだいたい1週間以内での退院となります。

image頭部単純CT 頭蓋骨3D写真

出血のある場所の上の骨に穴を開けます

開頭血腫除去術

全身麻酔で行います。頭の骨を外して出血を取り除き、出血している場所を確認して止血を行います。術後に脳が腫れる可能性のある場合は後述の外減圧術やICPセンサー留置術を併用します。

image頭部単純CT 左:手術前 右:手術後

血腫は取り除き、外減圧術とICPセンサー挿入も行われています

外減圧術

重症例の場合は手術中や手術後に脳が腫れてくることがあるため、脳の腫れの圧力を逃すため頭の骨を大きく外して、あえて頭の骨を戻さず皮膚だけを縫合する外減圧術を行います。また外減圧術だけでは脳の腫れが抑えられない時に、損傷している脳や重要な機能がない脳を一部切除する内減圧術を行うこともあります。外減圧術で外した骨は-80度の冷凍庫に保管し、脳の腫れが落ち着いた頃に元に戻す形成術を行います。

image頭部単純CT 頭蓋骨3D写真

急性硬膜下血腫術後の写真で、頭の骨を大きく外して脳の圧力が逃げるようにしています

ICPセンサー留置術

意識の状態が悪い頭部外傷では、脳の血流や頭の中の圧力を保つことが重要で、脳の圧力を直接測定するためのICPセンサーと呼ばれる装置を一時的に脳へ植え込むことがあります。多くは急性硬膜下血腫などで開頭術を行なった時に同時に行われます。

image頭部単純CT

矢印の先にある白く細長いものがICPセンサーで、直接脳に刺して脳圧を測定します

スポーツ関連頭部外傷について

最近注目されているスポーツに起因する頭部外傷、特に脳しんとうを始めとする頭部外傷の診断・治療を行っております。脳しんとうは起こさない、再発させないことが大切です。
また脳しんとうからの競技復帰のための指導、予防のためのアドバイスなどを行ない、安全に競技を行うためのサポートをさせていただきます。
特に大人よりも重症化しやすい子供たちが楽しく安全に大人になってもスポーツに関わっていけるように、親御さんやコーチからの相談も受け付けます。
受診時は受診予約をお取りいただき、かかりつけ医からの紹介状をお持ちください。また緊急の受診相談もお電話で診療可能かお問い合わせください。

担当医:菊池医師 
外来日:火曜AM・水曜AM (物忘れ外来枠で診察いたします)